みなさんへ NO42 ー新年を綺麗に迎えようー

皆さん、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
どんなお正月でしたか?リフレッシュできしたか?

さて、お正月を迎えるにあたり、毎年の恒例行事というか、約束事、これをやらなきゃお正月を迎えられない…そういう自分の中の特別な決まりごとのようなものってありますか?
僕にとってのそれは、日本酒を買うことなんです。お正月用の特別の日本酒。

話はずいぶん遡りますが、僕は日本酒が苦手でした。「日本人なのに申し訳ない」と謝りたくなるくらい、どうにもこうにも苦手でした。原因は、父親が毎晩の晩酌で飲む燗にした
日本酒がまったく美味しいと思えなかったからです。口の中にねばりつく感じで、べちゃっとしていて、喉がカァーとなる、そんな燗にした日本酒が本当に苦手で、二十歳をすぎて帰省するたびに、夕食で父親に合わせて、そんな日本酒を飲むことがちょっと苦痛でした。悪酔いしてしまうというイメージもありましたし。
かたや、僕が20代半ばだった1990年前半に、地酒ブームがおこりました。新潟の「〆張鶴」、長野の「真澄」など、地方の小さな酒蔵の日本酒にスポットライトが当てられ、なかなか手に入らないお幻の日本酒として注目されていました。
美味しい日本酒ってどんな味なんだろう?そんなお酒どこで手に入るんだろう?そんなことを考えていた僕は、ピンときました。
そうだ量販店に行けば、きっとあるやろ…
思い立ったが吉日、新開地の量販店に行ったのが1994年の年末でした。
日本酒のコーナーにたくさん平済みされていた石川県の銘酒「天狗舞」の特別純米酒を買いました。いろんな雑誌やメディアでも銘酒と紹介されていたお酒です。
そして年が明けたお正月に、その天狗舞をいただきました。
お正月になるまでずっと我慢していたんです。でも、「なるほどぉ、めちゃくちゃ美味い!」とは思えませんでした。
世の中の多くの人達が美味しいと言っている日本酒がこれ?
って感じで、逆にショックでした。これが最終的な答えなのか?って。

その約2週間後、阪神淡路大震災が起きまた。どっぷり被災した僕は、美味しいお酒のことなんて考えている余裕はありませんでした。1日の終わりに気持ちよく酔うことができれば…それが幸せでした。そんな慌ただしい日々が、すこし落ち着き始めた1996年の2月のある日、僕は義援金の関係で会社を午後から休み、手続きを済ませた後、美味しい日本酒を探しに自転車で出かけました。小雪がちらつく寒い日でした。
JR兵庫駅にほど近い当時の家から、山の方を目指して自転車を走らせ、大開通よりさらに山側、上沢という地区に差し掛かった時に、ビルの1階にお酒の看板がかかっているのを見つけました。ちょっと覗いてみるか…そう思った自分を本当にほめたいと思います。
そのお店こそ、その年からずっとお正月のお酒を買い続けている「てらむら」さんというお酒屋さんなのです。

てらむらさんには地下に日本酒の貯蔵庫があり、ご主人が吟味した全国各地の日本酒が、まるで我が子のように大切に保存されています。f:id:fujimako0629:20200110114123j:image

僕が、おいしい日本酒を探しているという話をすると、その地下の貯蔵庫の中で、当時は若旦那的な立場だった今のご主人が、僕に進めてくださったお酒は、加西市にある「富久錦」という蔵で醸された「人」という名前のお酒でした。それは、純米吟醸純米大吟醸とかというレベルの高いお酒ではなく「普通純米酒」と呼ばれるお酒で、一升瓶で2千円ほどだったのですが、フリーティーで雑味がなく力強い、とても美味しいお酒でした。僕はやっと、29歳にしてやっと、美味しい日本酒と巡り合えたのです。本当に感動しました。
あれから24年、今年のお正月のお酒ももちろん、てらむらさんで買いました。今は年に1,2度しかうかがうことはできませんが、僕にとっては、本当に大切な場所なのです。

そして、もうひとつお正月の行事として欠かせないものになりつつあるのは、「みなさんへNo.6」でもご紹介した、阪神石屋川駅の南にある「神戸酒心館」という蔵で、元旦7時から販売される「祝い酒」を買いに行くことです。6時前から蔵の前に並び、神社でご祈祷を受けたありがたいお酒を仲間4人で購入し、今年も新年を祝うことができました。

f:id:fujimako0629:20200110114115j:image

日本酒は、光や温度に影響を受けやすいデリケートなお酒です。僕が買った天狗舞は、暖房のきいた売り場で瓶が直接並べられていました。もしかしたらそういうことも味の変化と無関係ではないのかもしれません。そして、若い頃の僕がどうしてもなじめなかった、醸造用アルコールがたくさん添加された温めた日本酒も、いつの間にか美味しいと思えるようになっていました。特に冬の寒い日に食べるおでんとの相性
は抜群です。あれだけ口に合わなかったのに…僕もいい年になったということなのでしょう。

新しい年を迎えるということは、やはり身も心も引き締まります。
区切りとしての年の終わりをできるだけ綺麗に終わらせ、綺麗な新しい年を迎えたい。「綺麗」と表現したことは、昔から継続されている年末年始の行事を行うことでもあります。
お正月飾りで年神様をお迎えし、お節料理とお餅で新年を祝う。
昔からずっと引き継がれていることには、意味があるはずです。それはきっと「綺麗」なものだから引き継がれるのです。
僕にとってのそのうちのひとつが、お正月用のお酒なのです。

日本酒のこと、酒米のこと、農業のこと…酒造りのことをたくさんの事を教えてくれた本は、このコミック「夏子の酒」です。日本酒好きの方はぜひ、手に取ってみてください。

夏子の酒 全12巻 尾瀬あきら:著
モーニングコミックス、講談社

f:id:fujimako0629:20200110114119j:image