みなさんへNo65−新型コロナ感染とトラキチの話−

12月に入った最初の日、僕は新型コロナの陽性者になった。
抗原検査キッドで調べたら、2本の線が浮き出てしまった。
いろんな人に迷惑をかけてしまうなぁ…と思ったけど、まぁ仕方ないと気持ちを切替えた。
神戸市の新型コロナ感染者のサイトに登録するとすぐに担当の方とお医者様から電話がかかってきて僕は軽症者という扱いとなり、11月30日を0日として7日間の自宅療養を経て、熱などの症状が収まれば、8日目から日常生活に戻れるといことだ。
かくして僕は、自分の部屋での隔離生活を送ることになった。
症状は本当に軽く、味覚障害なども出ず、過去に経験したことがある喉風邪、鼻風邪という程度だった。新型コロナではなければ、会社で仕事をしていたかもしれない、その程度の症状で、5日目には、空咳は出るものの、9割がたいつもの状態に戻った。
こんな感じで7日間、僕はほぼ自分の部屋で過ごし、予定通り12月8日から出社ということになった。
「ほぼ」がついているのは、庭には定期的に出ていたからだ。
僕の部屋は1階にあって、裏に小さな庭がある。その庭に1匹の野良猫が定期的にやってくる。実は2年くらい前からちょくちょくやって来ていた猫で、気が付けば、うちの庭で丸くなって寝ているのをよく見かけるようになっていた。当時は、もっとたくさんの猫が来ていたけど、今はこの子だけ。

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僕は、隔離生活の間、この子と多くの時間を一緒に過ごして、たくさん助けてもらった。

キジトラ柄の雄猫なので、トラキチと名付けたその子は、多分今3歳くらいだと思う。人に換算すると25歳くらいだ。
右耳がV字にカットされている「さくらねこ」で、さくらねこという存在を知ったのもトラキチに出会ったからだ。(NO.47に書いています)
僕は、トラキチ不妊手術をしたさくらねこだということを前提に、うちの庭で魚の骨などを時々与えていたけれど、隔離期間の初日に固形のキャットフードを買ってきてもらい、庭に繋がるコンクリートステップのすぐ横で、丸くなっていたトラキチのために、キャットフードをトレイに入れて窓辺に置き、そっと窓を開け、窓から離れた。
一瞬逃げる格好をしたトラキチだが、なんか様子が違うぞ、とそっと部屋の中を覗き込んで、食べ物の存在を知ると、彼は、前足を窓の冊子に乗せてパクパク食べてくれて、僕はちょっとホッとした。
実はトラキチ、今年の夏にこっそり家に入ってきたことがあった。
僕が家に帰った夜10時ごろ、部屋の窓を開けて、洗面所で服を脱いでいる間に部屋に入ってきて、すったもんだして窓から一目散に逃げだしたとう経緯があったから、怖がって部屋には近づいてくれないのではないかと心配していたんだけど、大丈夫だった。
次の日の朝も、トラキチはコンクリステップの上にちょこんと座り、部屋の中を覗き込んでいた。
トラキチは、暖かい場所をよく知っている。
コンクリートステップの横には、僕が抜いた雑草や剪定した木の枝などが重ねて置いてあり、ふわふわの絨毯のようになっているし、太陽が照り付けているときには、庭の向こうにある隣のマンションの物置の天井の上で日光浴をしていたりする。
そして、定期的に僕の部屋の掃き出し窓の前にちょこんと座り、部屋の中をじっと見つめたり、コンクリートステップの横で丸くなっていたりすることも多くなってきた。
隔離生活の3日目だったか、庭で丸くなっていたトラキチが、急に「うぅーーん」と鳴き出した。警戒しているときの鳴き声だ。
僕は窓にそっと近づいて、静かに窓を開けた。トラキチは、僕には目もくれず、「うぅーーん」「うわぁーん」と相手を凝視して鳴いている。
どんな子が来ているのかな?窓からぞっと顔を出しトラキチが向いている方を見ると、顔が白とグレーで、背中がサバトラ柄のトラキチよりもちょっと大きい丸々と太った子がじっとトラキチを見つめており、僕に気づくと逃げ出してしまった。身体のサイズから、うちのトラキチは、喧嘩になれば負けてしまいそうだ。いや、絶対に負ける。
その日から、背中がサバトラのサバキチは、ほぼ毎日うちの庭に来るようになった。
そのたびに、トラキチはコンクリートステップの上に置いてあるアジサイの鉢と家に間に隠れて「うぅーーん」「うわぁーーん」と鳴いている。たぶん、「くるなや!」「どっかいけや!」と言っているんだろう。

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仕事をしている間はまだ気がまぎれたけど、仕事を終えて寝るまでの間と、仕事を始めるまでの間、僕は自分の部屋か庭で、一定の距離を置いてトラキチと一緒にいた。僕が、朝起きて窓を開けると、トラキチは、家の角を曲がってすぐにやって来るようになった。
新型コロナに感染しても、朝はいつも通り5時半に起きていたので、僕はまだ暗い誰もいない6時前の2階の居間に行って、ベランダから右隣の家との隙間を懐中電灯で照らしてみたら、そこでトラキチは寝ていた。気温は3度くらいだ。
僕は、彼に気持ちが入ってしまっているので、すごく健気に思えて、切なくなった。
そんな矢先、25日のクリスマス、いつもなら餌を食べ終えたトラキチが、部屋を出て行こうとしない。その時、部屋でアイロンがけをしていた僕は、ふわふわのピロークッションをトラキチの足元にそっと置いた。トラキチよ、そこに座れ、暖かいぞ!

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彼は、10分くらいクッションの前にちょこんと座っていた。だんだん僕の足が冷たくなってきたとき、トラキチは、クッションの上には座らず、コンクリステップの隣の枯草の絨毯の上で丸くなった。
負けた・・・(笑)
暮れの押し迫った今、トラキチを、うちの子にしたい気持ちと、でも、いつかはいなくなってしまうから、という切ない気持ちの中で、僕は揺れ動いている。

今回は、本の紹介はありません。
今年も1年間ありがとうございました。素敵な年をお迎えください。