みなさんへNo64 −ほんものは美しい−

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ここのところ、仕事終わりで会社を出て、家に着くのが夜9時を回ることが多く、それから家のことをしたり、お風呂に入ったりして、やっと晩ごはんにありつける。居間はYouTubeだのゲームだの騒々しいので、自分の部屋でおかずを肴に、静かに一杯やらせてもらっている。そんな感じだから、その時間は、夜の10時以降になることが多い。
朝は毎日5時半に起きることに決めているから、早く寝なきゃなのだけど、やっぱり1時間くらいは自分のホッとタイムが欲しいから、寝るのも日付が変わってからになってしまうことが多い。そんな時間に寄り添ってくれるのが、僕にとっては絵画です。写しではない作家さんが描いた本物の絵画。

4年前、初めて作家さんの個展をギャラリーに見に行き、初めて小さな絵画を買った。
その絵画が家にあることで、僕は、言葉では言い表せないくらいの幸福感や安心感を得ていることに気付いた。家に帰れば、その絵画に会える。だからもうちょっと頑張ろう、もうちょっと笑顔でいよう…そんなふうに自らを奮い立たせる自分がいた。
初めて絵画を買ったのは、2018年の4月のこと。当時、義父が末期がんを患っていて、いつ病院から電話がかかってきてもおかしくない状況だった。少しでも長く生きていてほしいという思いと、痛みを伴う苦しい闘病から解放させてあげたいという思いが重なって、僕ら家族は、みんなつらい思いをしていた。そんな時に、僕は初めて作家さんから絵画を買い、
自分の家に飾った。そんな状況だったから余計にそう実感したのだと思うのだけど、僕は確実に、その絵画に助けてもらった。その絵画のタイトルは「白い花に祈る」。
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義父は、僕が絵画を買ってから1か月後に安らかに天国へと旅立った。

その絵画を買ったギャラリーは、毎月定期的に若手の作家さんを中心に、絵画や写真の展示を行っていて、僕は初めて訪れて以降、ほぼ全ての展示を拝見し、グッとくる作品があれば、僕の買える範囲で家にお迎えしてきた。最初の1枚をわが家にお迎えして味わった幸福感とか、安心感がとても大きくて、僕は、心と身体のリフレッシュやリセットを、作家さ
んの描く絵画に求めるようになった。それは、僕にとってとても自然な流れだった。
僕が拝見するのは、これから有名になろうという作家さんの展示が多いので、僕でもなんとか手にできる価格の絵画もあり、我が家にこの4年間で20点ほどの絵画をお迎えした。
大きなお金は払えないから、絵画自体も小ぶりなものが多く、部屋や廊下や階段の壁にかけたり、床やテーブルの上に置いたりして楽しんでいる。そして、定期的に飾る場所を変えたり、フレームを変えたりして、絵画自体や空間の雰囲気の変化も楽しんでいる。
お気に入りの絵画は、皆本当に美しくて、愛おしい。そんな美しくて愛おしいものを、自分の部屋や廊下、2階へ行く階段に座って眺めていると、心と身体がトロトロにほぐれていき、また明日も何とか乗り切ろう、と思えるのだ。

絵画といっしょに、日々の短い一人の時間に欠かせないものが本や雑誌。お酒を飲みながら本や雑誌をパラパラめくっている時間は、とてもリラックスできる。手元の本や雑誌に目をやった後、前を向くと目線の先にはお気に入りの絵画がある…なんと贅沢な!(笑)
僕は、本を読むことと同じくらい本自体も好きなので、本屋さんや図書館など、沢山の本がある空間にいるだけで、幸せな気持ちになる。
10月30日の日曜日、その「本」というモノがどのように作られているのかを聞く機会があった。
淀屋橋odonaの1階に、竹尾という紙の商社が運営している淀屋橋見本帳というお店があり、そこで10月30日まで「矢萩多門と本づくり」という企画展が行われていた。
矢萩多門さんは、ブックデザインのお仕事をされている、いわゆる「装丁家」さん。本の表紙など、本の外観をデザインすることを生業とされている方で、今までに600冊以上の本の装丁をされてきた方だ。多聞さんがパーソナリティーを務めるインターネットラジオ、「本とこラジオ」で僕は多聞さんのことを知り、リスナーになった。
企画展の最終日に在楼されているとSNSで知り、僕は、多聞さんに会いたい!いろんな話をお聞きしたい!という衝動を抑えられず、勇気を振り絞って会いに行った。めっちゃ緊張したけどその甲斐あっていろんな話を伺うことができた。
普段、何気に手にしている本は、そのデザインや文字のフォント、表紙や見開きなどに使われている紙にいたるまで、今まさに本という形になろうとしている、作家さんの書かれた文章に対する装丁家のイメージ基に、感性や専門的な知識に裏付けされた仕事により出来上がっていると知り、僕は、今まで何も考えていなかった自分が少し恥ずかしくなった。
表紙のデザイン1つ決めるのにどれだけの苦労があるか、考えたことありますか?
表紙のデザインを決めるのに、たくさんの試作が作られる。
ボツになった表紙のデザインも展示してあり、装丁家の細やかな拘りがよく分かった。そのボツになった沢山の試作も、ベースのデザインはよく似ていて、文字の大きさや、縦書きなのか横書きなのか?文字をどこに置くかなどが違うだけ。
ならば、ここに至るまでの、全く違うデザインの表紙の存在もリアルにイメージできて、改めて装丁家の仕事の凄さ、大変さを思い知らされた。

そして、11月5日の土曜日、僕は、大好きな作家さんの個展を拝見した。彼女は人気上昇中のイラストレータさんで、僕は1枚彼女の描いたイラストを持っていて、部屋のテーブルの前に飾っている。そのイラストを、展示の真似をして、イラストとフレームの間の空間を透明に変えたら、とても素敵になった。f:id:fujimako0629:20221113182917j:image

元々美しいイラストを、さらに美しく見せるための工夫…それは美しい文章を美しい本という形にすることに似ていると思う。
多聞さんと、お嬢さんのつたさん共作の「美しいってなんだろう」という本を今読んでいる。美しいってなんだろうと思うことが、僕の内側を少し、美しくしてくれている気がする。

美しいってなんだろう?
矢萩多聞 つた:著 世界思想社