みなさんへNo66−大谷翔平選手のしたかった野球−

3月23日の日本時間11時45分ごろ、MLBを代表するスラッガーで、エンジェルスの兄貴分のマイク・トラウトを三振に仕留めた大谷翔平は、雄たけびを上げながら自分のベンチの方に3、4歩進み、グローブと帽子を投げ捨て、走ってきたチームメイトに飛びついた。
160キロ越えの直球2球と、ホームベースの横幅と同じ43センチも曲がったスライダー、その3球すべてで空振りを奪っての三振。全6球、1球もバットに当てさせなかった。
WBC決勝のアメリカ戦に3対2で勝利。7連勝で勝ち取った完全優勝だった。

僕は、今回のWBCに大谷翔平選手は出場しなくてもいいと思っていました。
怪我でもして、本業のメジャーリーグの試合を長期離脱するようなことがあってはならないと思ったからです。
でも彼は、早々に出場することを表明し、記者会見を行いました。ジャパンのユニフォームに袖を通して、栗山監督と一緒に。
「優勝だけを目指す」
大谷選手はそう言って、本当に成し遂げました。

WBCが始まる少し前に本屋さんに並んだ雑誌「Number」に大谷選手の長いインタビューが掲載されていて、彼はこんなことを言っています。
「今のささやかな幸せか…なんでしょうね。ささやかな幸せを感じるまでもなく、今は日々に満足していますね。今日もしっかり練習できたし、これから帰ってごはんも食べられるし、夜になったら寝心地のいいベッドがあってそこで寝られるし、明日が来ればまた練習できるし…そういう、何の不安もなく暮らせる感じというものに満足しているんですね。それがささやかではない幸せなんだと思います」
まるで、野球が大好きな中学生や高校生のセリフだと思いませんか?
あの大谷翔平のセリフですよ。今期の総収入85億円の男ですよ。
大好きな野球ができて、おいしいごはんが食べられて、ゆっくり寝られて、次の日にはまた大好きな野球ができる…こんな生活ができている今がめっちゃ幸せだ。そう言ってるんです。まさに野球小僧ですよね。
自分の思い描く理想のプレーができるようになるためなら、彼はきっと、どんなつらい練習や節制も楽しめるんです。
野球のことだけを24時間、365日考えていられるんです。
野球(すなわち仕事)漬けの日々がささやかではない幸せだと言える…素敵なことですよね。

今回のWBC日本代表の全7試合で僕が観たもの、それは、身体全体でチームを鼓舞し、キラキラした眼差しで、全力で勝つためにプレーしている大谷選手、いや大谷少年でした。
2021年のポストシーズン進出が途絶えた後、大谷選手は、「ファンも、エンジェルスも好きだけど、それ以上に勝ちたいという気持ちが強い」そう言いました。
彼は、きっとこんな野球がしたかったんです。大好きなチームメイトと一緒に、相手に勝つために一つになれる野球。それができているから、大谷選手の「勝ちたい気持ち」が爆発したんですよ。あんなに少年のように楽しく野球やってる大谷選手、見たことないですもん。

準々決勝のイタリア戦の3回の攻撃、一死一塁で鮮やかに決めたセーフティーバト。
その時のことを、大谷選手はこう言っています。
「あの場面に関しては、ヒッティングするプライドはなかった。日本代表チームの勝利より優先する自分のプライドはなかった。」
この言葉で僕は大谷選手の勝ちたい気持ちを自分なりに理解しました。
極端な大谷シフトで狭くなっている一、二塁間を鮮やかに抜いてやろうだの、いっそのこと、高々と打ち上げてスタンドまでもっていってやろうだのといった個人的なプライドは一切なく、最悪のシナリオであるダブルプレーを回避し、自分も確実に一塁で生きる方法は何かと冷静に判断できたうえでの奇策だったんです。そこまでして勝ちたかったんです。
ちなみにその日、彼は先発ピッチャーでした。正に打って走って投げました。その結果がチームの勝利に繋った。それがうれしくてうれしくて仕方がないんですよ。自分が積み上げてきた実績や記録など、どうでもいいんです。
よかったねぇ、やっとやりたかった野球ができてるねぇ…そう思うと、今でも涙が出そうになります。そして今まで、特にこの2年間、怪我を乗り越え、ようやく健康で1年間プレーできるようになり、個人として、とてつもない成績を残したにもかかわらず、チームをポストシーズンに導けなかったことが、本当につらかったんだろうなぁと、改めて思いました。

話は変わりますが、WBCの決勝アメリカ戦、最後のバッターであるトラウトを空振りの三振に切って取った直後の大谷選手の歓喜の顔が、僕には、山王工業戦で流川からのラストパスを受けて、自らのブザービーターで勝利した時の桜木花道歓喜の顔と重なりました。

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ちなみに大谷選手も、「SLUM DUNK」の大ファンだそうです。
3月27日のドジャースとのオープン戦の登場曲に大谷選手が選んだのは映画「THE FIRST SLUM DUNK」のオープニングテーマであるThe Birthdayの「LOVE ROCKETS」でした。この映画、僕は2回観てボロ泣きしました。(笑)

LAエンジェルスは、4月13日時点で7勝5敗。大谷選手は、打者として打率3割、ホームラン3本。打点8。OPS.979、投手として3試合に登板2勝0敗、投球回数19,防御率0.47、奪三振数24、奪三振率11.37です。防御率0.47!!ホームランも年間40本越えペース。絶好調です。
今年も健康で1年間戦い抜いてくれることを心から祈っています。それが達成された時、どんな景色を我々ファンに見せてくれているのか…本当に楽しみです。「勝ちたい気持ち」が達成され、WBC同様、漫画でも書けないドラマチックなシーズンになりますように。

コミック「スラムダンク」全31巻:井上雄彦
集英社

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