みなさんへ No.50 −アシナガバチの巣を駆除した話−

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もう9月に入ったというのに、毎日暑い日が続いていますね。
みなさん、夏バテ…いや秋バテしていませんか?僕は、ちょっとバテ気味です。
今年の夏も、例年と変わらない35度オーバーの夏で、「もう慣れっこやわ!」と言いつつも、僕の内側(内臓)はちょっと元気がない日が続いたりして、「なんだかなぁ」と思っているのですが、僕の外側ではいつもの夏とは違う「あれ?」と思うことがありました。それはアシナガバチを庭で頻繁に見ることだったんです。
彼らは、知らん顔しておけば、人に危害を加えることはほとんどありませんから、あまり深く考えることなく「またおるわ…」とスルーしていたのですが、先日、スルーできない事実について家族から報告を受けました。隣の家との、人が一人通れるくらいの隙間に、布団干しを畳んで置いているのですが、そこにアシナガバチが巣を作っていたんです。それも、今まで目にした中でも一番大きいかも、と思われるくらいの巣を。
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仕事から帰って家人にそのことを聞いた僕は、懐中電灯を持って庭に出て、そっとお隣との隙間を覗きました。
そこには、直径10センチはゆうにあると思われる大きなアシナガバチの巣がありました。
働きバチが10匹ほど巣にたかっています。
家人いわく、風が強い時など、たまに2階のベランダに干している洗濯物が、お隣の家との境目に落ちることがあるので、落ちてないかと定期的に確認をしているそうで、その日確認した時に、落ちている子供の部屋着とともに見つけた、とのこと。
僕は正真正銘の田舎育ちなので、子供のころ、アシナガバチなんかブンブン飛びまわっていましたし、何度も刺されました。家の周りのあちこちに巣があり、当たり前の存在でした。
でも、だとは言え、あれくらい大きいアシナガバチの巣は、本当に見た記憶がないように思います。

さてさて、どうしたものか?
あのままにしておくわけにはいきません。駆除しないと。今思えば、薬局に駆除用のスプレーを売っているよなって思うんですけど、その時はそういう方向に頭が回らず、自分の力で何とかしなきゃと真剣に考えていました。
バケツに水を汲んで、巣をめがけてありったけの力で水をぶちまけ、一目散に逃げるか?
木の枝を切るための持ち手の長い剪定鋏で巣を切り落として、一目散に逃げるか?
それくらいしか思いつきませんでした。
でも、逃げ足は結構早い方なので、思い通りにできれば、なんとかなるだろとは思っていました。
できるだけ早く実行しないと、次から次へと働きバチが増えるので、次の土曜日が決戦の日です。
そして土曜日、まず、バケツに水を入れて巣にそっと近づいたのですが、偵察バチみたいな役割のハチがブンブン飛んでおり、また、そばに植えているユーカリの枝をかき分けながらの作業になるので、あっさり断念。柄の長い剪定鋏で巣を切り落とす作戦も、鋏を入れるスペースが狭く、一発で決める自信がなく、こっちも断念。
じゃあ、どうするか?
いい案を思いつきました。2階のベランダから巣にめがけて水を落とす作戦!!…いや、ここまで来たら水ではなく、お湯を落とす作戦!!
僕は、汗だくになりながらお湯をたくさん沸かし、巣にめがけて間隔をあけて3回ジャーっと落としました。3回とも見事に命中。しかし、巣にお湯が当たった瞬間巣から飛び立った働きバチが巣に戻ってきて、巣を切り落とすことができません。
それどころか、必死に巣の穴の中にいる幼虫に寄り添い、世話をしようとしているのです。
熱湯が3回もかかっているんですから、幼虫は生きているはずはありません。
巣のそばで見ていると、泣きながら必死に、
「おーい、返事せー。なんでや、なんでや!」
と幼虫に向かって大声で叫んでいるように見えて、自分のしたことを顧みるというか、切ない気持ちになりました。
その後しばらくして、生き残ったハチたちは、諦めたのかどこかに飛んで行ってしまい、巣はがらんと無防備な塊になりました。
僕は、その巣を剪定鋏で切り落としました。
地面に落ちた巣に蟻がすぐさまたかり始めるのを見て、僕は、さらに何とも言えない気持ちになりました。これが自然の摂理なんやなぁ…

虫たちは、必死に純粋に一つの事だけを信じて生きています。
短い命をそのことだけに燃やします。自分たちの命が繋がっていくことだけを信じて。

 

さて今回ご紹介する本は、吉田篤弘さんの短編小説集「月とコーヒー」です。
1編が10数ページの短編小説が24編納められています。
まだ2編しか読んでいませんが、人の普段外に出さない、自分の中だけで大切に持っているものにスポットを当て、優しく言葉に紡いだ物語が集められている本のように思いました。
吉田篤弘さんの本は、この「月とコーヒー」が初めてなのですが、書かれている文章の雰囲気がとても好きで、声に出して読みたくなる本です。

 

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今、裏庭に、アシナガバチの抜け殻の巣があります。僕が無防備な塊にし、その後、自然の摂理で抜け殻になりました。
僕は、悪いことをしたんでしょうか?…いや、していません。
やるべきことをやったんです。
だけど、未だにちょっと切ない気持ちが残っています。だれかにこの気持ちを何とかしてもらいたいくらいです。
あっ…そっか、この本が何とかしてくれるかもしれませんね。

 

月とコーヒー
吉田篤弘:著 徳間書店