みなさんへNo55 −コーヒーテーブル クローゼットの整理、ノーマン・ロックウェル−

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関西の緊急事態宣言は2月末で解除になったけど、関東は当初解除を予定していた2月7日からさらに2週間程度延期することになった。
ワクチンの接種も当初の計画通り進んでいないみたいだし、このままいくと本当に1年延期されたオリンピックもどうなるか分からない状況になってきている。
不要不急の外出を控えること。人が密集する場所にはいかないこと。マスクなしで大きな声で話さないこと……はい。ちゃんと守っています。週に1回から2回は在宅勤務もしていますし。
家にいる時間が長くなると、必然的に自分の部屋にいることが多くなる。居間は子供たちに占領されているからなおさらだ。仕事が終われば、そのままそこでお酒も飲む。在宅勤務の日は、朝の8時から布団に入る夜の11時くらいまで、ほとんど自分の部屋で過ごす。
仕事も読書もお酒も、自分の好きなものの中でなので、それほどストレスには感じない。

そんな2月最初の土曜日、僕の部屋に素敵な英国風のコーヒーテーブルがやってきた。
置こうと決めた場所は、部屋に入ってすぐに置いているインドネシアの古いイスのとなり。その椅子は、ウィスキーなどの洋酒と、それを飲むためのグラスを並べるテーブルとして使っていて、同じダークブラウンのコーヒーテーブルがとなりにあれば、色合いが統一された落ち着いた雰囲気になるだろうなぁと、そのお話をいただいたときに僕は直感的に思った。サイズも、今そこに置いている本棚として使っている組み立て式の棚とほぼ同じだと分かり、僕はすぐさま、「譲ってください」とお願いした。
しかし、コーヒーテーブルをそこに置くには、解決しなければならない重要な問題がある。
今そこにある棚と、その棚に置かれている本など丸ごと全部をどこかに移動しなければならない。
僕の部屋には移動できるスペースはない。さて、どうしたものか…

僕の部屋のクローゼットには、引っ越してきてから一度も手を付けていない「開けずの段ボール」が山ほど積んであって、8割ほどを占めている。ずっと整理しなきゃと気になっていたんだけど、行動を起こせずにいた。このタイミングでクローゼットの「開けずの段ボール」を整理すれば、棚を丸ごと移動できるスペースをクローゼットの中に確保できるかもしれない。この話は、僕にクローゼットの整理をさせるために、神様が仕組んだことなのかも…僕はマジでそう思った。
1月最後の日曜日、丸々1日かけて僕は「開けずの段ボール」と格闘した。
子どもの写真を入れている額や写真立て、大量のビデオテープ、結婚式のお祝い電報など、本当にいろんなものが出てきた。僕は感傷に浸ることを極力抑え、燃えるごみ用のごみ袋8つ分の断捨離を敢行し、棚が入るスペースの確保に成功した。そして神様はさらにすごいプレゼントを僕にくれた。僕が23歳くらいの時に買って、結婚して以来行方不明になっていた、ノーマン・ロックウェルの2枚の絵を見つけさせてくれたのだ。子供の写真立ての段ボール箱の中に。
僕は、この2枚の絵の存在を長い間(かれこれ25年くらい)忘れてしまっていた。2年前の2月9日、堂島の古書店で、ノーマン・ロックウェルの個展のカタログを見つけるまで。
そのカタログを見た瞬間、記憶がおぼろげだった当時住んでいた僕の部屋が、リアルに頭の中によみがえった。玄関から部屋までの廊下の壁にこの2枚の絵をかけていたんだ。

23歳頃の僕はアメリカに夢中だった。特に華やかなスポーツシーンにあこがれていた。衛星放送が今のように普及していなかったあの頃、リアルタイムでNBAMLBNFLなどのプロスポーツの情報を手に入れることは難しく、英字新聞を辞書片手に読み、ボブ・グリーンのコラムやジェイ・マキナニーの小説を読み漁り、古いアメリカ映画もたくさん観た。
そんな古き良きアメリカの日常を切り取って描いたのがノーマン・ロックウェルだった。
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2年前に出会ったノーマン・ロックウェルの個展のカタログは、1998年に大阪で行われた「ノーマン・ロックウェル展」のもので、僕はカタログのページを捲るたびに、行方不明になった絵のことを思いだし、もう出てくることはないだろうなと思った。
そして、カタログを見つけた日からちょうど2年後の1月最後の日曜日、その絵は奇跡的に僕の手元に戻ってきた。もしかしたら神様ではなく、この2枚の絵がコーヒーテーブルをこの部屋に招くよう仕組んだのかもしれない。
「ずっとそばにいるんだから、いい加減に見つけ出してくれよ」、と。

1週間後の2月6日土曜日の朝10時半、うちにコーヒーテーブルがやってきた。頑張って空けたスペースにすっぽりと収まった。想像以上にバッチグーだ。
これから部屋に馴染んでもっとバッチグーになるはず。
移動した棚は、移動前とほとんど同じ状態でクローゼットの中に納まっている。
その棚が元あった場所の壁には、お気に入りの絵やイラストがかけてあるのに、移動してきたクローゼットの中には、白い壁があるだけ。
僕は、クローゼットの棚の上の壁に、2枚のノーマン・ロックウェルの絵をかけた。前の場所の絵やイラストは全て作家さんが直接描いた本物だけど、思い入れは勝るとも劣らないこの絵をかけると、クローゼットの中のこの一角がさらに素敵なスペースになった。

そんな出来事からさらに1ヶ月が経った。相変わらず、不要不急の外出を控える生活が続いている。おうち時間がそれほど苦じゃなかった僕だけど、さらに苦じゃなくなった。僕の部屋に2つのお気に入りの場所が加わったからだ。コーヒーテーブルと、クローゼットの棚。
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コーヒーテーブルに簡単なおつまみを置き、部屋で本を読んだり、ラジオを聴いたりして過ごす時間が日に1、2時間あれば、僕は大丈夫だ。

ノーマン・ロックウェル展カタログ 非売品