みなさんへ No.38 −失敗を糧にしよう−

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僕の両親は、父が79歳、母が75。お陰様でまだまだ元気で、僕が生まれ育った岡山県高梁市という小さな城下町で仲良く喧嘩をしながら暮らしています。
50歳も過ぎると、父や母の長く生きてきて培った経験というか積み重ねてきたもののうち、受け継ぐことができるものは受け継ぎたいと思うようになるんですよね。

先日、夏休みを取り2泊3日で帰省しました。
実家でのんびり夏休みということではなく、父と母の日常生活に入り込んで、普段の仕事を手伝うことが目的の帰省で、事前に両親にもそう伝えていました。
帰省した25日の午後、父と一緒に家の前の畑に植えてあるトマトを終わりにする作業を手伝いました。今年もたくさんの実りをありがとう、という気持ちを込めての作業です。
写真を添付しているので見ていただきたいのですが、この状態にプラスして、透明のビニールシートが屋根から地面にかけて覆いかぶせてありました。
おいしいトマトを作るために、これだけのものを数ヶ月前に父ひとりで作ったんです。
そういうことを深く考えもせず、できたトマトを「おいしい、おいしい、来年もよろしくー」とのんきに頬張っていた僕。
去年も一昨年も…ずっと前からたった一人でこれだけの栽培設備を作り、おいしいトマトを食べさせてくれていたという事実と、その苦労に向き合いもしなかった自分が、なんとも情けなくなってしまいました。

父と一緒に脚立に上り、アーチ形の屋根をとり、木枠を解体し、感謝しながらトマトの根を地面から引き抜き、数ヶ月前、トマトの苗を植える前と同じ何もない畑に戻しました。
その作業中、青空を少しずつ黒い入道雲が覆いはじめて、それを見た父は、
「もうすぐ夕立が来るけぇ、木材やアルミパイプを先に持って帰ろう」
と言ったんです。まだ空の半分以上が青空で、日が照っているというのに。
半信半疑で作業を中断し、枠組みに使っていた木材や屋根を取り付けるためのアルミパイプを肩に乗せ、2人で倉庫まで持って行きました。そして最後の木材を運んでいるときに、ぽつぽつと大粒の雨が降り始め、あっという間に土砂降りになりました。木材やアルミパイプを片付けながら、なぜ降り出しのタイミングをピンポイントで予測できたのかを父に聞くと、父は遠くの山を指さし、
「あそこの山と山の間の谷の部分から黒い雲が湧いてこっちに来たら、夕立が来るんじゃ」
と。
それから1時間ほど強弱を繰り返しながら雨は降り続き、その谷の上の雲が薄い灰色の雲に変わり、雲間から青空が見え始めると、雨は小降りになり再び日が照り始めました。

実家がある周辺の地域は典型的な過疎の町で、実家の周りの家もお年寄り世帯がほとんど。だから、作り手がいなくなり荒れてしまっている田畑があちこちにあります。
実家の隣の家にも作物を作らない畑があり、荒れる前にその畑を黒いシートで覆ってほしいという依頼が父にきて、次の日のまだ比較的涼しい朝9時過ぎから、黒いシートで畑を被う作業を行い、さらに午後からは隣接する荒れた土地の草取りや、地面に埋まっている石やブロックの除去などを行い、西日が僕たちを強く照り付け始めた午後4時半にすべての作業を終了。作業を行っている間中父は、僕とほぼ同じレベルの作業をしながら、僕に指示を出し、僕は父の指示に基づき父に負けじと必死で作業をしました。
僕の実家は農家ではないのに、父はなぜあそこまで手際よく僕に指示を出せたのかを、じりじりと背中に西日を受けながら帰路の途中に聞いてみました。
「教えてもらいながら、叱られながら、失敗しながら、工夫しながら、長年農作業を手伝ってきたからだ」そんなことを父は僕に言いました。

「失敗の本質」という本があるのをご存じでしょうか。
日本軍が大東亜戦争(第二次世界大戦)に敗戦した理由を組織的に分析した難解な本ですが、その本をとても分かりやすく解説してくれている本がこの「『超』入門 失敗の本質」です。
この本で僕が学んだことは、
「『体験的学習』で一時的に勝利しても成功要因を把握できないと長期的には必ず敗北する」
ということ。
成功体験を鵜呑みにして、その戦略を信じて突き進んでも失敗する可能性が極めて高い、そう僕は理解しているのですが、自然を相手に成功しようと思えば、成功したことがたまたまか、理にかなっていたからなのかの分析ができない限り、その成功体験を鵜呑みにすることなど、怖くてできないですよね。

父が、雲の色や動きを見て雨が降るタイミングを見極められたのも、雨が降る可能性を知るという成功体験から、いつ降り出すかの予測精度を、失敗を重ねながら高めてこられたからだと思います。

失敗はしようと思ってできるものではありません。想定内の失敗は「計画通り」です。
失敗しないようにと会社全体で考えているのに失敗は必ず起こります。ということは、仕事の先にある大きな付加価値について必死に考えながら仕事をしていると、その過程には失敗があふれているということです。逆に何も考えずに言われたことだけをやっていれば、失敗はしないかもしれないけれど、付加価値は0です。予測通りの完成物に追加の価値はありません。
失敗は怖いです。納期の問題や人間関係、モチベーション、失敗の種は目に見えるいたるところに転がっていますが、避けて通れないのなら、糧には絶対にしなきゃいけませんよね。

「超」入門失敗の本質 〜日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ〜
鈴木博毅:著 ダイヤモンド社