みなさんへ No.21 −父の手術、母の献身、献身について考えた- 2018.03.30

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> 1月の初旬、僕の父に動脈瘤が見つかった。7cmほどある
> という。見つかった場所は心臓の5〜6cmほど上。沈んだ
> 声で父から電話がかかってきて、
> 「動脈瘤があるらしいんじゃ…」
> と言った。
> 僕は、ちょっとびっくりはしたけれど、
> 「破裂したら、たぶんお陀仏やったはずやから、見つかって
> よかったやん」
> と前向き返した。
>
> 父は、今年78歳。
> いい年なのだけど、高校のときに盲腸の手術をして以降大き
> な病気やけがをしたことがなく、それ以来の入院、手術とい
> うことで、相当ビビっているようだった。
>
> 僕にとっては祈りの日である1月17日、午後からお休みを
> もらい、手術をしてもらう病院で、執刀していただく先生か
> ら、今の父の状態や手術についての説明を両親と一緒に聞く
> ため、実家のある岡山に帰った。
> 手術の内容は、動脈瘤を切除し、その付近にある、手足と脳
> に行く血管の分岐点を、切除した箇所の血管ともども人工血
> 管に換えるというもので、5〜6時間の手術になるという。
> 手術の日は2月6日と決まった。成功すれば、2〜3週間で
> 退院できるそうだ。
>
> 2月6日の手術は無事に成功し、父はちょうど2週間後の2
> 月19日に退院した。
>
> その父を、献身的にそばで支えたのが今年74歳になる母。
>
> 母は、5、6年前に転んで脚の骨を折って以降、すたすたと
> 歩けなくなっていて、最近さらに足の具合がよくなくて、つ
> えを突かなければ歩けないような状況だった。
>
> 父の入院から、退院することができた2月19日まで、母は
> 1日だけ家に帰った以外はずっと病院に泊まり込んで父に付
> き添った。
> 術後、痛いだの、喉が渇いただのと、わがまま言い放題の父
> を叱咤激励し、ドクターやナースに頭を下げ、足が悪いのに
> 父の着替えや、いろんな荷物を抱えて慣れない環境を動き回
> り続けた2週間は、本当に大変だったと思う。
> 手術直後の週末の3連休、父の見舞うために病院へ行ったの
> だけど、母の献身ぶりを目の当たりにして、ほったらかしで
> 帰ることができず、結局僕も、3連休ずっと病院にいて母を
> 手伝った。
> そして、「献身」について考えた。献身を辞書で引くと、「身
> をささげること。自分の利益をかえりみずつくすこと。自己
> 犠牲」とある。自分の利益をかえりみずつくす、というとこ
> ろが、「ひたむき」とか、「夢中」という言葉を僕にイメージ
> させた。
> 献身的な行動は、賛同する人を集めるのかも…
>
> そんな母から先日、お米やら野菜を送ったと電話があって、
> その電話で、
> 「あんたが探しとった本、やっぱりどこにあるかわからんわ」
> と。
> そういえば僕は去年の初夏のころ、僕が小さい頃読んでいた
> 絵本ことを母にしたことがある。
> 自分達の生活のことでいっぱいいっぱいのはずなのに、母は
> 絵本のことを気にしてくれていていた。
> うわぁ、申し訳ない…と思いながら、僕は、
> 「わざわざごめん。ありがとう」
> と母に言った。
>
> 僕が探していたのは、小学校の1年生くらいのときに親に買
> ってもらった『へこき三良(さんらあ)』と『ほしになった
> りゅうのきば』という大好きだった2冊の絵本。
>
> その会話を受けて、うちの桜が満開に近づいた先日の日曜日、
> 僕は神戸の地下鉄湊川公園駅のちょっと山手にある「蚊帳文
> 庫」という気になっていた古本屋さんに行った。
> ぽかぽか陽気で新開地から歩いた。
> 蚊帳文庫さんは絵本が充実している本屋さん。
>
> 母から、絵本の話を聞かされてから、僕は、僕が子供のころ、
> 絵本を読んでいた小学校の低学年のころをしょっちゅう思い
> 返す。
> 当時お駄賃なんかをコツコツ溜めていた黄色いリスの貯金箱
> のことを思い出した。小銭だけで2千円になったときに「や
> ったー1万円になったぁ」と喜んだんだよなぁ…
> 建替え前の古い家の間取りも思い出した。
> 2階の父と母の部屋に置いてあった母が読んでいた雑誌も。
>
> 蚊帳文庫さんはとても落ち着く空間で、僕は1時間以上絵本
> を中心に見て回った。
> 残念ながら、探している2冊の絵本はなかったけれど、僕が
> 生まれた年の、僕が生まれる2ヶ月ほど前に発売された『暮
> しの手帖』を見つけた。
> 母が読んでいた雑誌です。
>
> 3月20日は母の誕生日でした。
> ちょっと遅れちゃったけど、この『暮しの手帖』を送ろうと
> 思います。
> 懐かしいと思ってくれるかなぁ?
>
> 暮しの手帖 第一世紀84号(1966年5月5日発行)
> 暮しの手帖社 花森安治編集
>
> このメールは、係長さん以下の役職者の方にお送りしていま
> す。