みなさんへ No.17 −お客さんの喜ぶ顔をイメージできますか?− 2017.11.28

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僕は、リアルタイムでほとんどテレビは観ないので、録画した番組を週末の早朝の静かな時間に観ることが多くて、その時間はテレビ画面を独占できる楽しい時間です。

美の壷」というNHKの番組をご存じですか?
伝統工芸品やら昔から伝わってきた技術などにスポットを当てて、狭いテーマを深く掘り下げて紹介するお気に入りの番組。
先日タイトルを見て、絶対に見逃したら駄目だ!とすぐに録画したのが「ほろ酔いの杯」というタイトルの美の壷

僕の父親は日本酒党で、真夏でも燗にしたお酒を飲み、母親はお花やお茶を習っていたので、家のいたるところに花が生けてあり、中学校くらいまではよく抹茶を点ててくれていま した。また実家は岡山なので、両親の酒器、花器、茶器の中 には備前焼がたくさんありました。
そういう下地があるからなのか、僕は十代後半から陶磁器のうつわ、特に備前焼が気になっていました。父親の血を引き継いでいる手前、僕もお酒好き。オッサンと呼ばれる年になればなるほど、杯やぐい飲みなどに魅力を感じるようになってきています。
さらに、二十代の前半から洋酒の世界を知ってしまった僕は、ガラスの酒器に触れる機会が多く、特に脚付きのステムグラスにも陶磁器の酒器同様若い時から惹かれていました。

 

「ほろ酔いの杯」というタイトルがつけられた美の壷は、まさに、杯やぐい飲みにテーマを当てた番組。
デザイナーで居酒屋を研究されている太田和彦さんが紹介された、骨董的価値があるわけでもなく、作家ものでもない、
地方の古道具屋で埃をかぶっている数百円で手に入るという数々の酒器を鑑賞しながら、なるほど、いいなぁと。
太田さんのお気に入りだという、口縁から内側の斜めの部分に富士山が描かれている白磁の杯、そこにお酒を注ぐと、湖越しの富士山になるという粋な演出…素晴らしい!
僕は、番組の中で太田さんがおっしゃっていた「地方の古道具屋で埃をかぶっているような杯」を探しに、番組を見た二日後の土曜日、神戸の元町に繰り出しました。
そして、こんな杯を見つけてきました。たぶん大正から昭和
初期にかけて、普通のおうちで使われていた杯なのではないかと思います。
一つ目の藤の花文様の杯は、僕の苗字の一文字で、僕にとっ ては縁起物。お酒を干せば、春雨に濡れる藤の花。
二つ目の桜の花文様の杯は、薄い青を背景に白…なぜ桜色ではないのか?たぶん、夜桜見物中の杯に落ちた、もしくは映った桜ではないかと。暗がりの青にピンクが白に見えるという演出。
三つ目の魚文様の杯は、杯の端に金魚のような魚が大きく描かれているのですが、目を凝らしてよく見てください。小さな魚が、お酒の池にもう一匹泳いでいるんです。
今ほど娯楽がなかった百年近く前の人たちは、こんな遊び心と一緒にお酒を楽しんでいたんですね。本当に素敵です。
そして驚愕の…この杯、すべて一つ百円。びっくりのお値段です。
この杯の作り手は、この杯にお酒を注いで口に含むまでの間に「ニヤっ」とする人のことをいっぱい想像しながら作ったんだと思うんです。

お客さんが喜んでくれているところを想像しながら物を作っ たり、サービスを提供したりする、それってとても大切なことですよね。

 

こんな調子の僕なので、映画やドラマでお酒のシーンが出てくると、ストーリーよりも使われている酒器やお酒の種類、具体的なお酒の銘柄などのほうが気になってしまうタイプです。昔見た映画には、ストーリーは思い出せないけれど、小道具として使われたお酒やお酒のシーンを覚えているものがいくつもあります。

 

 今日紹介する本は、個人的にもよくしてくださっている作家、エッセイストの武部好伸さんのエッセイ、ウイスキーアンドシネマ、ウイスキーアンドシネマ2です。この二冊は、まさに僕が気になってしまう、映画の中の、お酒それもウイスキーが出てくる場面から、その映画そして役者を語るというとても小気味良いエッセイです。
武部先生は映画の評論のお仕事もされており、さらにケルト文化の研究もされているので(関大の先生でもあります)、ケルト文化と関わりが深いアイルランド発祥といわれるウイスキーと映画というのは、先生の得意分野。だからこそ下準備と検証に多大な時間をかけられて完成した渾身の二冊です。
ウイスキーアンドシネマ2のほうの中身をちょっと紹介します。
2008年公開の「容疑者Xの献身」、東野圭吾直木賞作品の映画化です。主演は福山雅治さん。皆さんの中にも映画を観られたり、原作を読まれたりした方が多いのではということでこの映画をチョイス。
この映画の重要な場面に出てくるウイスキー、実は原作では日本酒なんだそう。なぜ日本酒がウイスキーに変わったのか?
キーポイントは「17年」。そしてそのウイスキーの銘柄は、スコットランドアイラ島で作られる「ボウモア」という僕も大好きなめちゃくちゃ美味しいシングルモルトウイスキー
では、数あるウイスキーの中でなぜボウモアになったのか?
これもキーポイントは「17年」なんです。詳しくは書店で本を手に取ってみてください。34ページです。2つの17で34です。(笑)
どうです?映画の観かたがちょっと変わって楽しくなりませんか?

実は、ウイスキーアンドシネマ2は発売されたばかりの出来立てのホヤホヤ。
僕は想像します。まず、この本に限らず、一冊の本を完成させるのはとても大変なお仕事なのだろうと。
そして、大変な中にも、僕のような酒好きや映画好き、酒も映画も大好きな人たちがこの本を読みながら「ニヤっ」とするところをたくさん想像しながら書かれたのだろうと。


ウイスキーアンドシネマ ウイスキーアンドシネマ2 武部好伸著 淡交社